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民主党のルーピー政治を予防する規定(大日本帝國憲法第六十七條)

枢密院帝國憲法制定会議憲法草案第六十七條 天皇の憲法上の大権に基ける歳出及法律の結果に由り又は帝國議会の議決に由り生じたる政府の義務を履行するに必要なる歳出は之を予算に掲ぐるも帝國議会は政府の承諾を経ずして既定の額を廃除し又は削減することを得ず。

【枢密院に提出された草案第六十七條注解】

 天皇の憲法上の大権に基ける歳出とは何ぞや。陸海軍の編成、及び行政各部の組織、文武官の俸給、其の他第一章に掲げたる諸般の大権に依れる制置の必要に生ずる支出を謂うなり。

 外國と条約を締結するは専ら天皇の大権に依る。故に條約を実施する為に必要なる歳出は議会に於いて之を拒否する権あることなし。此れ亦之を憲法上の権利に基ける既定の歳出とす。蓋し有効の條約にして式に依り公布する者は即ち法律と同じく國民遵由の力を有し、法律上の必要を生ずること通常の法律に異なることなきなり。

 彼の或る國に行わるる所の議院は、其の予算承認権を以て条約実施に必要なる費額を拒むことを得との説は(トッド氏議院政治論第一第六百十頁)、一國の主権は以て一國を代表するに足らずと云うに同じ。而して我が憲法の取るべき所に非ざるなり。

 法律の結果に由り、又は帝國議会の議決に由り生じたる政府の義務とは、國債の利子、及び年限又は年賦の約束ある元金払戻、人民営業の利息保証、地方費に対する補助の額を謂う。此れ乃ち前定する所の契約に依る者にして、予算の議を以て其の効力を破ること能わず。

 國家の経費を議会の監督に付するは、以て行政の濫弊を防がんとす。而して各國歴史上の経験に徴するに、議会多数の変動亦往々一定軌道の外に出て、國家存立の必要なる費用を削減するに至る。千八百七十七年北米合衆國に於いて、國会は陸軍の予算を議することを遷延し、同年オーストラリアに於いてメルボルンの議院は予算の全部を廃棄せしが如き、是なり。

 それ憲法の重要目的は以て國家の独立を維持せんとす。而して不幸にして此の二國の変局に陥るが如きことあらば、外観の美は以て実際の害を救うに足らずして、一朝にして容易に國家の大局を破壊するに至らんとす。

 故に憲法は本條に於いて議会に向て予算を議する為の要件を設けたり。蓋し憲法と法律とは行政及び財務の上に至高の標準を示す者にして、國家は立國の目的を達する為に憲法と法律とを以て最先の主位を占領せしめ、而して行政と財務とを以て此れに従属せしむべきなり。

 故に予算を議する者は憲法と法律とに準拠し、憲法上國家の制置と及び法律の義務に依れる必要とに給備するを以て当然の原則とせざるべからず(独逸憲法、兵制部六十二條に、軍隊予算の議定は憲法に依り、帝國軍隊の法律上の組織を以て基礎とすべし)。

 もし予算の議決に於いて、憲法上の権利に準拠せる組織制置の必要を破壊し、又は法律上の義務を廃減することあらば、此れ即ち憲法の原則に背くの議決とせざることを得ず(シュルチエ氏、グナイスト氏に依る)。予算の決議にして憲法の原則に背くときは、是を予算成立せざる場合とす。而して政府は唯々前年度の予算に依るの一方あるのみ。 

【枢密院に提出された草案第六十七條参照】

ボーリウ氏会計論云う、瑞典においては國会にして歳出を削減し、現在建設の事業を継続するに足らざる場合においては、國王の認可を得ざれば之を決議すること能わず。

瑞典憲法(スウェーデン)第八十九條云(千八百六十六年改正)、各議院においては王國の一般財務に関する法律命令を改正し又は解釈し又は廃止し或いは其の新法を起草し并に諸般行政の組織の原則に関る動議を為すことを得。然れどもこの諸項に関り國会之を國王に建言して其の希望を陳するの外に議決すること能わず。國王は参議院の意見を諮い其の國家に有益なるを信ずるに従い之を採用すべし。國王若し國会と一致して王國の一般行政に関る問題を決せんと欲するときは第八十七條第一項に規定したるが如く法律の発案に関る発議の制規に従い取り扱うべし。

「ブラウンシュバイヒ」憲法第百七十三條 豪族会議は國家の目的を達する為に必要なる費額を承認するの権利義務を有す。但し官有地収入の剰余及其の他の官有財産を以て支弁すること能わずときに限る。殊に豪族会議は憲法上より生じたる義務に依り國庫に就いて要求するを得べき支出を拒むことを得ず。

「オルデンブルヒ」憲法第百八十七條 議院の承認を受るに非ざれば諸税の賦課徴収するを得ず又有効に國債及負債を興すを得ず。議院は連邦の義務及國の憲法に適する政務を執行し殊に連邦の法律又は國の法律又は私法上の義務より生ずる支出の為に必要なる現行諸税の徴収を拒むことを得ず。

「アルテンブルヒ」憲法第二百三條 國会は政府と協同して政務上の諸費用を議定す。歳入出予算(通常四ヶ年を以て一会計年度とす)を確定するには政府と國会との協同を要す。この協同を経たる金額は之に対する事項及目的の消滅せざる間國会の承認なくして永く之を増加することを得ず又政府の承認なくして永く之を減少することを得ず。

索遜(ザクソン)憲法第九十七條 國会は経常及時の國用に必要なる金額の徴収を議定するの義務ありとす。之が為め國会は経費の必要便宜及び多寡を審査し且つ此に関し政府に対して異議を起し並びに費額の承認、支弁の方法、其の他一定の人員及び物件に租税を賦課する原則及び割合と其の期限及び徴収の方法とを議定するの権利を有す。

第百條 國会は審査を終えたる後歳計予算案に関る意見を國王に呈出すべし。若し其の意見は政府の要求定額を減少したるに係るときは詳細の理由を附し且つ國家の目的を誤ること無くして節減し得べき事物及び方法を示明すべし。

第百三條 第百條に依り國会より呈出する意見及び理由は政府に於いて更に熟慮を悉し國の安寧福利を破らざるときは之を参酌せざるべからず。
政府其の意見を採可せざる場合に於いて國会は政府の報答に関して再議を開く。國会尚原案の承認を拒むときは國王は一時の費用にして既に其の目的を達したるものを除き國用支弁の為め國会閉場後勅令を発し更に一年間前年の租税を賦課徴収せしむ。其の勅令中には本條に基きて特に課税する旨を記載すべし。但し其の勅令を以て前年の租税を課するは一年間に止まるに依り國王は其の一年間の経過六ヶ月前に臨時國会を招集すべし。其の他本條に関して原案の否決は各院に於いて列席議員三分の二以上同意するにあらざれば効力なきものとす。

「ハノーフル」憲法第九十一條三項 連邦法又は國法又は私法に基き政府の義務に属する歳出は國会に於いて否決すべからず。

「サクセン、マイニンゲン」憲法第八十一條三項 連邦法律上の義務履行に必要なる費額は之を拒むことを得ず。

「ボーリウ」氏理財論云、仏國の予算の法は分ちて三部となすこと左の如し。

第一 國債及び憲法上缼くべからざる経費
第二 文部の政務に関る官省の経費
第三 租税徴収費

「ボナソアード」氏憲法上の費用なる語を解釈して曰く、
第一 帝室費
第二 丁年皇太子の経費
第三 皇族親王及内親王の経費
第四 元老院議官の俸給
第五 代議士の俸給
第六 従前皇帝より附與せられたる貴族の贈金
第七 公債の利子及償還
第八 会社又は工商農業の為に約したる年金又は補助金
第九 同上の会社に約したる保証金
第十 政府に払い込みたる身元保証金の利子
第十一 俸給停止より生ずる恩給
第十二 憲法発布前勅令を以て予えたる恩給
第十三 予算額内に於いて各大臣の職権に依り契約したる負債

北米合衆國憲法第六章第一條 この憲法の発行の前に契約したる一切の國債及び一切の負債は連邦の下に於けるに同じくこの憲法の下に於いて合衆國に向て効力あるべし。


 枢密院帝國憲法制定会議の第一審会議において帝國憲法草案第六十七條はそのまま第六十八條に移った後、二度の修正を経て、大日本帝國憲法第六十七條「憲法上の大権に基づける既定の歳出及法律の結果に由り又は法律上政府の義務に属する歳出は政府の同意なくして帝國議会之を廃除し又は削減することを得ず」となった。 
 
 帝國憲法草案第六十七條の審議は「既定」の解釈を巡り、会議の最終段階まで紛糾したが、第一審会議第二読会における井上毅(書記官長)と伊藤博文(議長)の答弁がこの第六十七條の立法趣旨を平易に解説している。

 井上は質問者の寺島宗則(副議長)に対して次のように答弁した。

 「既定の俸給とは在来の官吏の俸給を云うものにして、官制より生ずる新規の俸給を指すものにあらざるがため、これに対しては議院は容喙することを得るのみならず、これを廃減することを得るの趣旨なり。」

 しかしなお「既定」なる概念は寺島には理解されず、寺島は次のように質問した。 

 「今仮に二十四年度の予算を議するにおいて、二十三年度までの予算金額は少しも廃減することを許さざる精神なれば、これを明記すること必要なり。ただ既定とありては其の意味明瞭ならざるがごとし。」

 続いて鳥尾小彌太(顧問官)が次のように質問した。

 「既定の額とは年々引き続きのものを指すや、又は其の年政府より予算に記載したるものをいうや。」

 井上は、あたかも分かり切ったことと云わんばかりに、

 「既定とは其の年政府より予算に記載したるものにあらず。従前より固有引き続きの定額を云うものなり。」

と答えたのであった。既定という文言を巡る議論が紛糾したため、伊藤博文が改めて本條の立法趣旨を次のように述べたところ、議場は直ちにこれを了解したという。

 「第六十八條の精神は政府全体の存続を必要と認めて起草したるものなれば、細末なる事項を論究するに及ばざるが如し

 憲法上の大権に基ける歳出は本條に明記して始めて其の効力を有するものなり。故に若し之をここに掲げざれば、國会は自由に之を廃減することを得ん。

 又法律の結果及帝國議会の決議より生ずる歳出は、一旦議院において議決し其の義務を政府に負担せしめ、後日に至りその金額を廃減するときには、政府はその義務を果たすこと能わず。

 これ本條を設けて之を予防するの策なり。然れどもこれら既定額の中といえども、政府においては之を廃減するも左まで差し支えなきものあらん。これらは政府承諾のうえ議院において廃減することを得せしむるの趣旨なり。」

 帝國憲法第六十七條の立法趣旨を要約すれば、議会が政府の同意を得ることなく自由勝手に、法律の結果に由り生じた歳出や法律上政府の義務に属する歳出を廃止あるいは削減してしまうと、政府は法律を執行する義務を負うのに、法律を執行できなくなってしまう。

 つまり帝國議会によって協賛(承認)された法律の執行が議会自身によって阻止されることになる。同じく議会が政府の同意なくして憲法上の天皇の大権に基ける既定の歳出を廃減してしまうと、政府は予算執行の義務を負うのに予算を執行できなくなってしまう。予算は既定なのに、いつまで経っても有効にならないのである。
 このような支離滅裂な政治は國家の存立を破壊してしまう。だから伊藤博文ら帝國憲法の起草者は憲法に第六十七條を置いたのである。
 
 憲法上の天皇の大権に基づく歳出が新置及増置のものである場合は、帝國議会は自由に論議してそれらを廃減することができる。ただし新置及増置の歳出が議会の協賛を経た場合は、それらは既定の歳出となり、政府の同意なくして議会は既定の歳出を廃減することはできないということである。

 安倍内閣時代の国会に発生した珍事件は、民主党によって提案された教育基本法の改正案が、政府与党の自民党に承諾された直後に、民主党自身によって拒絶されたことであろう。これは民主党のルーピー体質を象徴する政治事件であった。
 
 大日本帝國憲法第六十七條は、この種のルーピー政治の発生を防ぐための規定である。この帝國憲法第六十七條は、同憲法第二十九條の「法律の範囲内において」と同様に戦後世代の日本国民に誤解され批判されがちである。しかしこの條項の立法趣旨は、殊更に議会の権限を弱め、政府の権限を強くすることではなかった。
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龍井榮侍

Author:龍井榮侍
 東亜連盟戦史研究所は、主として大東亜戦争に関する国民の戦史知識水準の向上を目指して開設されました。

 弊研究所が確信する「正統戦史研究」とは、信用の置ける第一次史料を集め、史料に事実を語らせ、独自の史観を構成することです。だが第一次史料とて作成者の欺瞞、錯誤を含んでいるかも知れず、たとえ紛れもない真実を示していても、所詮それは膨大な歴史的事実のごく一部にすぎません。

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 所長の本拠地は森羅万象の歴史家ブログです。

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